初めてのクリスマス

ドリーム小説 「こっちではクリスマスないんだ……」

12月には入って気がついた。
捲ったカレンダーに見慣れた記載が無く、
普段なら10月のハロウィンが終わった11月には街は
クリスマスのイルミネーションで飾られる。

一人身が寂しくなる時もあれば、それをネタに友人と馬鹿騒ぎをしたり、
子供の頃にはサンタからのプレゼントとその存在に心躍らされたりもした。

「そういえばハロウィンも無かったんだよね……
クリスマスソングも無いのってなんか変な感じ。」

外は確実に寒くなっているのに冬を感じないのは、
今まで「冬」と言うものを感じさせていた街の風景が変わらないからかな。
そんな事をぼんやりと考えてしまう。

「もみの木はあるんだよね。」

家事を済ませ街に出て気づく、一年中青々とした大きな木。
花屋に行けば、冬でも赤く色づくポインセチアの鉢植えが売っている。

「できるかな……」

花屋のラインナップを確認し、そのまま足を貸本屋へ向け、貸りる本は普段とは違う料理の本。
それから雑貨屋でラッピングの材料をそろえる。
一人で祝う事になるかもしれないクリスマス。
それでも心の中にぽっかり空いた穴を埋めるようには一人準備を進めた。




12月25日


「おかえりなさい。」

何時もと変わらぬ玄関先での家主の出迎え。
リビングへあがったロイはぽかんとしていた。

「これは…何か有るとはとは思っていたが、今日は君の誕生日か?」

ここ数日間が何かの準備をしている事は気づいてはいた。
加えて、「今日のお夕飯はちょっと特別なんです。だから帰宅前に一本お電話くださいね。」
と出かけに声をかけられて、帰宅してみたらリビングが普段と違う。


テーブルの上にはローストチキンにシフォンケーキ、冷えたシャンパン。
元の世界でのクリスマス料理としては地味ながらも、見慣れない部屋の飾りにロイは唖然とする。

「今日は、私の居た世界で「クリスマス」って言うお祭りの日なんですよ。ロイが早く帰ってきてくれてよかったです。」

「残業ならまだしも徹夜だったらどうしようかと思ってた」と笑う。

「それにしても豪華だな…これはポンセチアにもみの木か?」

鉢植えの飾りが付いたもみの木にポインセチア。
が数日前に花屋で買って、今日の為にラッピングを用意したものだ。
バランス良く暖炉の上に飾り、テーブルには料理と一緒にアロマキャンドル。

「緑と赤がクリスマスカラーなんです。さ、ロイお料理冷めない内に着替えてきてください。」

玄関で預かったコートを腕に持ったまま、ロイの背中をが押す。
ロイを部屋へ見送った後もそのまま部屋に消え、ロイが部屋から現れるより早く、
も着替えを済ませリビングの入り口で彼を待つ。

「驚いた。料理もだが、今日は本当に特別な日なんだな。」
「せっかくですからたまには……」

ロイを出迎えたはずいぶん前にロイから買って貰ったコーラルのミディアムドレス。
迷わず伸びたロイの手はの腰を抱き、二人軽い音を立てキスを交わす。

「本当はずっと着てみたかったんですよ。」

見上げるの顔は照れからかほんのり赤い。
ロイはを席にエスコートするとリビングの照明を消し、自分も食卓に付くと発火布を取り出す。


パチンッ


乾いた音と共に蝋燭に火が灯る。


「すごい……綺麗…ですね…」
「この錬金術で綺麗だなんて言われたのは初めてかも知れないな。こういった使い方も悪くない。」

発火布を外し、シャンパンを開けグラスに注ぐ。
蝋燭に照らされたグラスの中炭酸の小さな泡がきらきら光り、二人のグラスが満たされロイがグラスを上げる。

「『メリークリスマス』です。ロイ……今日はそう言って乾杯をする日。」

ロイが口を開けるより早くが伝える。

「メリークリスマス。」
「メリークリスマスロイ……」

何も言わずロイはその言葉に従い、二人のクリスタルグラスが高く鳴り響く。

お互いグラスに口を付け、が用意した料理を皿に切り分ける。
記憶を掘り起こして用意した料理に何気ない会話。
二人で食べきれる量をと考えた上の苦肉のラインナップ。
楽しそうに料理を口にし、クリスマスに付いて問うてくれるロイに自然との顔も緩む。


食事が終わった後、食卓を片付けるにロイは、

「ドレスが汚れるだろう?私がやるよ。」

そいって食器を片付け、は久しぶりに飲んだアルコールの熱をソファーの上で冷ましていた。

「クリスマスとは今日だけなのか?」
「そうです。元々の起源は神様の誕生日なんですから…
国によって祝い方なんかも違いますけど、私が住んでいた日本ではただのお祭りです。」
「おしいな…クリスマスでないと君のこんな姿が見れないなんて…」

の隣に並び、腰を抱き寄せる、
普段の服からは見えないラインと、食卓から移動させた蝋燭に照らされた白い素肌。

「クリスマスはこれで終わり?」
「後は……」

膝の上に乗せてあったリボンの付いた包み紙。
「分かってるくせに」と笑いながらがロイへとそれを差し出す。

「メリークリスマスロイ。これは私からのクリスマスプレゼント。」
「ありがとう。」

プレゼントと共に受け取る軽いキス。開いた包みの中からは白いセーター。

「手作りなんです…サイズは合ってると思うんですが、着てくれますか?」
「もちろん。喜んで。だが私は君へのプレゼントを用意してないな……。」
「いりません。一緒にお祝いしてくれたじゃないですか…嬉しかった。」

そういいながらはそっとロイの胸に体を預ける。

「それだけじゃないです……ロイからは一杯頂いてますから……。」

ロイは膝に乗せていたセーターをテーブルへ置き、
の頬を撫でると小さくふくよかな唇を啄ばみ、薄く開いた入り口へと舌を入れる。
乾いた唇を濡らし、静かな部屋に互いの塗れた音を響かせながら、
ロイは奥歯に舌を這わせ、が応えるようにその舌へ舌を絡める。

シャンパンの甘い香りを含ませた唾液を流し、がそれを飲み下す。
腰を抱かれた体が火照り、ロイの首へと腕を回すと、互い甘い息と共に、銀色の糸を引きながら唇を離す。

「構わないね?」
「聞かなくてもいいじゃない……」

既にを抱き上げ、ソファーから立ち上がったロイの胸に顔を埋め表情を隠す。

二人がリビングを出た頃、
クリスマスを彩っていた蝋燭が小さな音と共に灯していた火を消した。







何も言わなくても分かってくれる。
そんな人が居るなら、
街頭のイルミネーションもクリスマスソングも……
それだけで幸せな世界でたった二人だけのクリスマス











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本当は翌朝まで書いてしまおうかと思っていたり居なかったり。
職業柄最後まで書くとHシーンの描写が下品になる可能性が大なのでやめました(笑)
ヒロインが大佐の事を『ロイ』と呼ぶのは本編でこれから経緯がかかれます。
そのわりに話し言葉が敬語なのもやっぱり本編で書きますが、
管理人の趣味だったりなかったり(爆)

私作業中はBGMってのをあまり聞かないのですが、(聞いてもクラッシックだけ)
脳内BGMってのは毎回ありまして、今回流れてたのは「Cherish Christmas」って曲でした。
学生の頃はまってた、林原めぐみさんの『bertemu』ってアルバムの中に収録されてる曲で、
「一人きりクリスマスの夜は」って歌詞の部分が頭から離れなかった。
今でもまだアルバム残ってるかな…たまには掘り出してみるか……