新しい年 | |
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「これはなにかな?」 「お雑煮です」 年の瀬か忙しく軍部の缶詰と、New Yearの接待から開放され、数日振りに帰宅すれば、 普段から掃除の行き届いた家の中が更に綺麗になり、目の前には見慣れぬスープと料理が並べられていた。 「先日はクリスマスだったか……」 「今度はお正月です。 ロイがいない間に大掃除も大晦日も一人で過ごして、年越してしまいましたから。」 向かいに座る顔が不機嫌だ。 「すまなかった。」 「仕事なら仕方ないです。」 「明日は久しぶりに休みなんだ。」 「そうですか。」 ……機嫌が悪い 「君のいた世界ではNew Yearにこういった料理を食べるのか?」 「そうですね。」 「…………」 料理に手がつけられない。 の作る料理の味は素朴な物が多い。 素材の味を生かして、塩分も控えめに薄味だが、それがまた美味いんだ。 数日前のクリスマスと違い見た事の無い料理が並ぶがこれもきっと私の舌を喜ばせてくれのだろう。 早く手を付けたいが、その前にこの空気をなんとかしたい。 「お仕事…お仕事だから仕方ないのわかってます。でも……リザさんからの電話一本だけで……」 あぁ…そうか…… 「すまなかった。反省しているよ。今回はイレギュラーが多かったんだ。 一度くらい帰宅すればよかったね。」 中尉が連絡を入れていたものの、1週間以上家を空け、その間はこの家に一人。 時々私の着替えを司令部に持ってきてくれてはいたものの、私は顔すら見る事ができなかった。 忙しさでそれどころではなかったが、私だって時折寂しさを覚えていたんだ。 着替えと共に差し入れられた手料理に見える彼女の優しさに甘えすぎていたのかもしれない。 「寂しい思いをさせたね……。」 料理とこの場の空気の事ばかり気に留めて、彼女の事を思いやる事を忘れていた。 女性に対してこんなに余裕が持てないのは初めてだ。 見知らぬ世界から来て彼女は一週間以上も一人で過ごしていたんだ。 寂しさも不安もあっただろう。 「…顔を上げて。今回の事は本当に反省しているよ。 今後もこういった事は無いとは言い切れない。だが必ず自分で連絡を入れる。」 「忙しいなら仕方がないです。私は私で好きなように過ごしてましたから。」 俯いて視線を合わせない顔が発せられた言葉が嘘だと言っている。 『寂しかった』と彼女は自覚していたのだろうか? 気づいていて口に出せないだけか…… 「……私も寂しかったよ。君に会えなくて。君の声が聞けなくて。」 「私……一人の時は結構夜中遅くまで起きてます。」 「そうだね…深夜になっても今後は必ず電話をするよ。」 「期待しないで待ってます。」 やっと顔を上げてくれた。 それでもその表情は寂しそに笑顔を作る。 彼女がここへ着てから何度と無く見せるこの顔も嫌いではないが…… 私が見たい彼女の顔とは違う。 「食べましょう。御節はともかく、お雑煮冷めちゃいます。」 「オゾウニはこのスープの名前か?」 「お餅探すの大変だったんですよ。」 彼女が『いただきます』と手を合わせ、それにならって私も料理に手をつける。 「オゾウニ」はさっぱりした「ショウユ」味で、中に香ばしく焦げ目のついた白い団子が入っていた。 「オモチ?」 「今ロイが食べてる白いお団子です。お醤油も向こうと少し違うから味を整えるのに苦労したんです。」 「ふむ……なかなか面白いスープだな…この団子も美味しいよ。」 素直な感想を述べると彼女の顔が自然に綻ぶ。 私が「オゾウニ」を食べていると彼女が小皿に料理を取り分ける。 「簡単な煮物と出汁巻きだけです。 他の物は作るの大変だし、きっとロイのお口に合わないと思ったから、作るの断念しました。」 取り分けられた料理を食べながら、彼女の入れてくれたワインを口にする。 普段の食事と変わりが無いが、料理が料理なだけに新鮮な気分だ。 彼女のいた世界は年中こんな新鮮な気分が味わえるのだろうか。 「前回のクリスマスと言い、君の居た世界はなかなか楽しそうだね。」 「『世界』と言うより『国』ですけど…… でもロイが行ったパーティーってNew Yearのパーティーだったのでしょう? こっちでもNew Yearはお祝いするんじゃないんですか?」 「あぁ…最近は治安の問題もあって規制が厳しいが、田舎の方では花火を打ち上げたりもするな。」 「花火?いいな…楽しそう。」 「私に時間があれば連れて行ってあげたいんだが……」 こちらの祭りの話にの瞳が子供のような輝きを見せる。 そう。私が好きなのは彼女が時折見せるこんな顔。 「せっかく休みが取れたのだし、明日は二人で食事にでもでかけるか?」 「ロイはお疲れでしょう?私の国では、お正月は家でのんびりごろごろ過ごす物なんです。 だからお食事はまた今度にしませんか?」 「家でのんびりか……そうだな、私にとってはそんな時間の方が今は貴重かもしれないな……」 いつも家で一人で過ごすにとっては退屈な事だろうに、そんな素振りを見せない。 彼女から送られるそんな気遣いと優しさ、労わりに癒される。 いつも与えられてばかりの私に彼女は何もさせてくれないのだろうか…… 「今度か……では今回は君と二人、ゆっくり過ごさせてもらうが、 今から休暇を申請しておいて、春になったらカーニバルへ行こう。」 「カーニバル?」 「花の咲き乱れる季節になると各地でカーニバルが行われていてね。 あまり遠出をすると疲れてしまうが、近場に泊まりで行かないか? たまには私から此方のお祭りを紹介させてもらおう。」 「………はいっ!」 切れの良い返事と共に見せた彼女の笑顔に思わず自分の顔も綻ぶ。 私が君に返せる物はそう多くはないだろうが、 この笑顔を見るためなら休暇前後の予想される激務も苦にならないだろう。 部下には申し訳ないが、春にはきっちり休みを取らせてもらって、旅行へ行こう。 夏には南部へバカンスへ行っても良い。 そういえば初めて出会った時にが着ていた服はずいぶん薄着だったように思える。 温泉に行くと言っていたが、温泉旅行も悪くない。 と出会った昨年を振り返り、と過ごすであろう今年の事を考える。 「どうしたんですか?」 「昨年君と出会った時の事と、これからの事を考えていたんだよ。」 料理を摘みながら考え込んでしまった私にが問いかけた。 そして次にの口から発せられた言葉と挨拶に納得してしまう。 あぁ…そうか…… 「ロイ。それが大晦日とお正月なんですよ…… 改めて挨拶させてくださいな。 『明けましておめでとうございます。 昨年は大変お世話になりました。今年も宜しくお願いします』」 「こちらこそ、宜しく。。」 挨拶を済ませたの手を握る。 今の私の中に君の居ない世界なんて考えられないなと、 口にせずともそう思い伝えながら。 |
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季節物第二段。 楽しかったよ打ってて。 データ吹っ飛んで改めたものの、最初に書いていたものよりこっちの方が内容としても楽しいないようになったかと。 |