甚平と浴衣とただの日常

ドリーム小説 「ただいま。」

「「「おかえりなさい!」」」

「おせーんだよ大佐。」

「お祭りお祭り!今日は4人で行こうって言ってたじゃないですか!」

「早く早く!着替えて出かけましょう!」

帰宅するなり3人の熱い歓迎を受け、
に促されるままジャケットを脱ぎ、何時もの様に預けるも、
その手を引かれロイは階段を上る。

「間に合ったんですよ!着付けしちゃいますから、服脱いでください!」

自分の部屋を通り過ぎ、背中を押され入室した部屋の壁にはやエドワードが身に着けている「ユカタ」が掛けられていた。

「これは……」

「昨夜徹夜しちゃいました!作りかけで気にもなってましたから……」

ロイが浴衣に触れると、が先ほどまで身に着けていたジャケットをハンガーに掛け、
代わり帯をベットの上に置く。

「服脱いでください。着付けしますから。早くしないと下でエド君達がまってます」

「ぬ…脱ぐのか?」

「当然です。一人じゃ着れないでしょう?」

「あ…あぁ…わかってはいるが……」

「今更何を恥らうんですか。さ、早く着替えて下降りましょう。」

はロイの前に回りこみ、躊躇するロイのシャツを脱がさんとシャツのボタンに手をかける。
細い指がシャツ越しに微かに肌に触れ、その手に視線を向ければ、
髪を上げ、既に浴衣を身に着けたのうなじが確りと視線の内に入ってしまう。

『目の毒だ。』

肌の感覚と視界に入る白い肌、加えて女性独特の甘い香り。
しかも意中の女性が自分の服に手を掛けている。

『いつまで理性が持つか……』

…ふ…服くらい自分で脱げるから……」

「そうですか?」

やんわりとの手を掴んで払い、視線を逸らす。
ロイはあわてて背を向けまだの指先の感触の残る肌の少しくすぐったい温もりを振り払うようにさっさとシャツを脱ぎ終える。

「下も脱いでくださいね。」

「し…下?」

「そうですよー。下着一枚になってもらわないと、ズボン履いたままでは着れませんから。」

「あぁ……そっちか……」

「そっちって……下まで脱ぐ気だったんですか……」

「あ……いや……」

「馬鹿な事言ってないでさっさとしてくださいね。」

すこしむっとしながらもベルトに手を掛け、ズボンを脱ぎ終えた頃には、隣に浴衣を持ったがロイから脱いだズボンを受け取り、
皺にならぬようとりあえずベットに置くと、浴衣を手渡した。

「袖はわかりますか?とりあえず羽織ってくださいね。私の身長じゃ届かないんです。」

「あ…あぁ……」

ロイは促されるままに浴衣を羽織れば、が直ぐに襟元を合わせる。

「ここ、こうやって押さえててもらえますか?帯まわしてしまいますね。」

「ユ…ユカタとはこうやって着せてもらうものなのか?」

「ん……そうですね。一人で着れないなら仕方がないです。」

そういっては襟元を合わせ、少し余る裾を合わせる為に屈みこんで見たり、
ロイに抱きつくように背中に帯を回してみたり……

「君は鋼のにも同じように?」

「そうですよ?エド君の場合私より小さいから随分楽でした。さ、出来上がり。
やっぱり男の人って良いですねー
日本人と違って足が長いから、帯の位置に少し困りましたけど、涼やかで格好良い。」

「ふむ…確かに何時もより腰の位置が違うが……
涼しいと言われればそうだな……不思議な感覚だ。」

「デザイン重視で少しずらしました。苦しいですか?」

「いや、大丈夫だ。さ、さっさと下へ行こう。アルフォンスはともかく、そろそろ鋼のが騒ぎ出しそうだ。」

「そうですね。」

脱いだロイの服を片付け、ロイは歩きなれないながらもの手を引きリビングへ行けば、兄弟そろって騒ぎ出す。

「ふむ……と鋼ののユカタのデザインは似ているが、私の物だけ違うのか?」

「いいだろー」

「あ…あの…これは……」

「なんだ?」

「わ…私とエド君のが女性向けでロイのだけが男性向けだったり……」

「はぁ?」

「正確にはね…子供用の浴衣って帯の幅が広いんだよ……ロイが着てるのと帯の幅が違うでしょ?」

「こ…子供用……」

「ご…ごめんね。だってエド君には絶対赤い帯の金魚結びが似合うと思ったから……。」

「さ、では行こうか。迷子にならないようにな。鋼の。」

意気揚々と満面の笑みで歩き出すロイに、呆然とするエドワードをアルフォンスが連れ出し、その隣でが何度も謝罪を述べるも、
街中の賑やかな雰囲気が伝わるに連れ、エドワードの顔も普段通りに戻り始め、
何時の間にかアルフォンスと二人先立って歩いていた。

「子供は単純で良いな。」

「謝ってはみたものの、やっぱりエド君のあの帯似合ってますよね!」

カランカランと下駄を鳴らし、エドワードとアルフォンスに促されるまま二人でゆっくりと歩いては、
時々露店を覗き、歩きながら夕飯代わりの食事を済ませて行く。

「露店の中身も食べ物も違うのに、こういうのは万国共通なんですね。楽しい。」

「テロを警戒してあまり派手にはできんがな……。」

「たしかに何時もより軍人さんも多いですよね……大変そう。
仕事ほったらかしてきちゃって大丈夫だったんですか?」

「何もなければそれで良いさ…ま、今日は私服警備と言う事で勘弁してもらった。」

「それって……」

「お――――い」

話ながら歩く先に、何時の間にかエドワードとアルフォンスが警備中のハボックとリザに出会い、立ち止まって二人に手を振り会話を中断させる。

「リザさんハボックさん、こんばんわ。ご苦労様です。」

「こんばんわ。お祭り楽しんでる?」

「なんすか大佐?その格好……」

「ユカタと言うそうだ。涼しくてなかなか良いぞ。」

「私の国の民族衣装夏服です。」

手を振るエドワードの元へ付き、4人と合流するなりそれぞれに挨拶をし、話始める。
祭り最中、特に異状も無いようで、二人の軍人はロイに簡単な現状報告を済ませると、やはり目に付く浴衣の話題に戻ってしまう。

「大将とアルは昨日も着てたよな。」

「えへへ。僕のはハッピって言うそうです。」

「昨日大佐が着てたのは?」

「あれは甚平ですね。」

「へぇ……まぁ昨日のあれはともかく、こっちなら別に可笑しくはないかな……。」

「どういう意味だ。」

「あ…いや…だって…良い歳こいたおっさんが足出して歩いててもだれも喜びませんって……」

「そんなものかなぁ……」

「「「そんなもんだ」」」

昨日の花火……
甚平を着て外出する際にも、出掛けに顔を会わせたハボック・リザの二人両名より
『流石にその格好での外出はやめてください』
との猛反発に、ロイは花火を諦め留守番を強いる事になった
(拍手参照(爆))

「う――…まぁだから今日がんばって仕上げたんですよ。」

「手作りなのねこの服。」

「はい。どこにも売ってませんよさすがに。
生地は意外と簡単に手に入ったんですけどね。けど作るの楽しかったです。
こんどリザさんとハボックさんの分も作ってみましょうか!
軍部マスタング組浴衣祭り!」

「中尉はともかくハボック少尉とその他はいらねーと思うぞ……」

「なんで?」

「私も鋼のの意見に賛成だな。女性はともかく、男のこんな姿を見てもだれも喜ばん。」

「ロイさん結構様になってるじゃないですか。」

「私は良いんだ私は。」

「エド君だってかわいいし……」

「かわいい……」

「あ……えっと…ほら、ハボックさんって大佐より背も高いし、作るの大変ですよきっと!」

「うーん……」

「人数分となると結構大変だと思うし…ね?」

いまいち納得のいかないを、何時の間にかアルフォンスが宥め、
気を逸らそうと、エドワードが背中を押し、祭りへと意識を向ける。
それを察してか、リザとハボックは3人の姿を見ながら、ロイと会話を進め、何時の間にかその場から姿を消していた。

「あれ?お二人は?」

「軍務に戻った。彼らは見回りに来ただけで、時間になれば司令部に戻らねばならんからな。」

「そうなんですか……。」

「私らもそろそろ戻ろう。兄弟はもう少し遊んで帰るか?」

「いや俺らももう帰るよ。」

出かけた頃はまだ明るかった空も、それでも結構遊んでいたのか、街には街頭が灯り始め、
流石に夜にはとたたみ始める店もちらほら出始めていた。

「文化…状勢の違いなのかな……」

「どうしたの?さん?」

「私の国ではね、夏祭りって夜なんだよ……
暗くなり始めてから提灯と露店の光で何時もは暗い町が明るくて……」

「帰ろう。さっき頂いた金魚も器を移してやらんとな。」

少し寂しそうな表情を見せたの肩をさりげなくロイが抱き寄せ、二人の後ろを行きとは逆に兄弟が歩き帰路に付いた。




「さて……」

帰宅して直ぐ、言われた通りもらい物の金魚を、露店で買ったガラスの器に移し、
が自室でエドワードの脱いだ浴衣の手入れをしている頃、
同じ部屋で普段着に着替えを済ませたロイがの後ろに立つ。

「どうしたんですか?」

「先ほどの話なんだが……」

「先ほど?」

「いや……昨日から遡るかな。」

「?」

意味の良くわからない言葉に首を傾げ、
エドの浴衣を壁に掛けたの手にロイの手が重なる。

「君が鋼のにも同じようにユカタを着せていたという事実に少し焼けるなと思ってね。それも2日連続で。」

「何馬鹿な事言ってるんですか?」

「それから、中尉ならともかく、ハボックの分なぞいらんだろう。」

「いいじゃないですか……」

「では君は私や鋼のにしたように、ハボックを裸にしてユカタを着せるのか?」

「あ………」

ここまできてやっと話の内容が読めてきたのか、は言葉に詰まり、そのまま少し頬を染める。

「口には出さなかったが……なかなか大胆だったと思うぞ?」

「そ……そんな言い方しなくても……」

『すまない』そう小さく囁きながらロイがゆっくりと背を向けてしまったの体を後ろから抱きしめる。

「で、この服はどうやって脱がせば良いんだい?」

そう言いながらも背中から抱きしめ、密着させた体に、顔を首元に埋めながらロイの手は、の浴衣の袷を探り始める。

「浴衣や着物の袷って、そうやって利き手が入らないように逆向いてるんですよ……」

「ほう……ではどうすれば良い?」

は腿を撫でるロイの手をやんわり払い、その手を帯へと運ぶ。

「どうせなら私一回やってみたい脱がせ方があるんですよね……」

「脱がせ方?私が脱がされるのか?」

「あ…いえ…脱がされ方と言いますか……」

「なんだ?」

「………帯を……」

「帯を?」

「帯を………」

ロイの手を帯に回すも、言葉を続ける事なくは俯いてしまい、
しばらく考え込み上げた顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

「ロイのせいですからねっっ!!!」

「な…なんなんだいきなり!」

言うより早くロイの体を軽く突き飛ばし、
叫びながらは部屋から出て行くと、階段を駆け下り兄弟の元へと姿を消した。

「な…なんなんだ一体……」



チリンチリン



下の部屋から聞こえてくる賑やかな声にとは切り離された部屋に、
一人理不尽に取り残されたロイと、行き場の無い手を夜風になびく風鈴が慰めていた。





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今回は本当に超だたの駄文です。
最後まで行ってしまおうかなーとも思ったものの時間切れで行けず、
番外編でそこまで書くのもどうかと思ったのも事実です。

何気ない日常の一コマってことで勘弁してやってください。
元々拍手がそういう方向で作ってるだけにね。

あと余談ですが、エドの浴衣を作る際にこっそりアルに浴衣も作ってるんですよこの女。
金魚もそうですが、今後の複線張ってみるのもおもしろいかなーと。

生アル絡めた夢も早よ書きたいです。
そのためのアニメ寄りなのになぁ(爆)