Act,01

「願いの叶うおまじない?」

書類の山を粗方片付た午後の昼下がり、
珍しく顔を見せた錬金術師が一冊の本を差し出した。

「『おなじない』って書いてるんだけどさ、要するに錬金術なんだよ。
これが理論めちゃくちゃでさ、どうやら物質系の錬金術と、大気系の錬金術を組み合わせてるってのはわかったんだけど、
俺たち大気系はさっぱりなんだよな……」

「で、試してみたくて私の元を訪れたと…。
まったく『おまじない』とは……君もまだまだ子供だな」

本を差し出した少年を鼻で笑いながら受け取った本に簡単に目を通す。

「鋼の…暴れるのも良いが、壊した物は自分で修理していけよ」

子供と言われキーキー叫ぶ少年に相手もせず、手にした本の一ページで手が止まる。

「これか……確かにめちゃくちゃだな……だがまぁ人体練成の類でもなさそうだし、なにか危険な練成といったわけでもないか…」

書かれた理論を追うようにそれを指でなぞり、
『トン』と確認するように練成陣を指で叩いた瞬間本が青白い稲光と赤い稲光を帯びながら手元を離れ、
中に浮き『バチバチ』と激しい音を上げる。

「あーーー大佐っ何してんだよ!」
「しらん私は本を読んでいただけだっ」
「しらんで済むかっ、実際練成反応起こしてるだろっ」

非難の声を上げながら大佐の横に並び、当事者の服を掴むも、目線は二人して、激しく光り続ける本から離れず、
本は部屋に備え付けられた応接用の机の上、部屋のほぼ中央で動きを止め、眩い光と爆発音と共に姿を消した。

「き…消えた?」
「お…おいおい…あれ図書館から借りてきた本だったんだぞ……」

爆発を察してか、エドの体を庇い、机の影にしゃがんでいた大佐が顔を上げ、
それに習って立ち上がったエドが呆然と本が浮いていた場所を見ていた。

「どーすんだよっ馬鹿大佐っ」
「どーするもこーするもっ」

『ぼとっ』

殴り合いでも始めようかと突っかかる二人の行動をさえぎるように、床にかばんが落ちる。
音にあわせてそちらを向いた二人の目の前に信じられない光景が広がった。




何もない空間に、本と同じような練成反応の光が現れ、そこから一人の女性がゆっくりと影を見せる。
影ははっきりとその輪郭を見せると折り、蹲っていた体を伸ばし、
背中にまるで羽でも生えたかの用に練成反応を背負い、
全裸のままその体を一瞬さらすと、
足の先から靴と服を纏い、
黒い髪の先までしっかりと色素を帯びると自らを呼び出した人物へと右手を差し出す。




いつの間にか見入るように立ち上がっていた二人に、差し出された手をロイは無意識に取っていた。

「大佐?」

目の前に現れた女性に食い入るように見つめるロイに軍服の裾を握り締めたままのエドが小さく声を漏らす。

「                              」

女性が二人に聞いたこともない異国の言葉で話しかけると、
練成反応は消え、意識を失った女性の体をロイが抱きしめ支えていた。




「大佐…あんたの願いっていったいなんだったんだ…」




しばらく唖然としていた空気を打ち破り、エドがロイの裾を握り締めたまま、顔を上げ問う。



「わ……私は…腿の綺麗な…お…幼な妻を……」






「………………………あほか――――――っ!」






思わずエドから視線を逸らし、背筋に冷たい物を流しながらぼそりとつぶやいたロイに2・3秒程の沈黙の後、エドが叫んでいた。


「兄さん!」
「大佐っっ!」

エドの叫びを側きりに、執務室の扉が開き、鎧姿の弟と、数人の軍人が部屋へと流れ込むと
視線は直ぐに、ロイの胸の中でその身を預け、意識のない女へと注がれる。



「大佐…あんた女連れ込んでなにしてんスか……」
「いやこの場合大将が連れ込んだ可能性の方が高くないか?」
「にしてもなんで意識がないんですか?」
「に…兄さん?」




ある程度の警戒はしながらも、各々好き勝手言いたい放題の中、
一人愛銃の安全装置を外し、ロイの頭部へとその銃口を向けた。

「大佐…何があったかご説明いただけますね?」

「中尉……」


無言で固まるロイに変わり、エドがその名を呼んだ。

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ぶはー
とうとう書いちまいました。異世界トリップって言うんですか?
しかもおいらの趣味でロイエド風味です。
ヒロインまだ名前変換ありませんが、次こそ……
ちなみに彼女の登場シーンはTOD2のリアラの登場シーンそのままです。
あの登場シーン好きなのよぉ
綺麗だよね。