適当にキッチンにあったお弁当箱を使ったら、
「これは借り物だから、今日できれば新しい物を買って来てほしい」
と言われました。
どうやら女性からの差し入れのお弁当が入っていたそうです。
「ふわーすごい……これ全部本なんだ……」
「当たり前だろ。図書館なんだから。」
大きくても公民館備え付け程度の図書館しか訪れた事の無い私にとっては大事だよ……
「さんは何を調べたいの?」
「えっ?えっと…最近のニュースと一般常識にこの国と世界の歴史かな……」
「歴史かぁ…ニュースなら新聞のバックナンバー少し読めば大丈夫じゃない?
一般常識ってそんな本あるのかなぁ。」
エド君は「アルがいればいいだろ」と一言告げ、さっさと特殊文献を漁りに行ってしまい、
アル君はお昼のお弁当の入ったバスケットを持って入り口付近にあった本棚を見上げる私の側にいてくれる。
アル君…良い子だなぁ…
「冠婚葬祭時の礼儀とかそういうの纏めて書いたハンドブックとかこっちには無いの?」
「えっと……」
「そういえば二人ともまだ15にもなってないんだもんね……
うーん……結婚式とかお葬式ってその国の文化や風習知るのには丁度よかったんだけど……
おいおいロイさんに聞く方が懸命かもね。」
「そうかも…後は歴史?」
「そうそう。えっと…歴史とか文化についての本は……。あと地図も欲しいなぁ…」
適当に数冊見繕った本をテーブルに置き、とりあえず地図を開いて見る。
図書館にはオープンの長机と壁際には個人向けに仕切のある机と2種類置かれていた。
エド君もあーいう机で調べ物してるのかな?
「この国って本当に内陸地なんだね…海が無い。」
「そうだね…僕らも湖ならよくしってるけど海は知らないな…。」
「領土面積もそんなに広くないし…あ、世界地図。」
地図帳を数枚めくり、見つけた世界地図には簡単に国名の記載があるだけの物だった。
「こっちでは国際交流ってあんまりないのかな……
世界地図がものすごく中途半端で終わってる……もしかして学校でも地理は教わらない?」
「僕らは小学校で終わってるから簡単にしか教わってないかな…
旅をするようになってから地図も詳しく見るようになったんだよ。」
「あんまり他所の国とか文化には興味ないんだね…軍事国家だから仕方ないのかな……
うん…やっぱりドイツかオーストリア付近か…私なんでこの国に来たんだろ……。」
「ドイツ?オーストリア?」
「えっと国の名前。私の世界でこの辺りはそう呼ばれてたの。
で、私の住んでた国はここ。東の端の国。
小さな島国で他国からはJAPANって呼ばれる事が多かったかな……。」
「東の島国なら僕らも少ししってるよ。前軍部に顔出した時ブレタ少尉達が
『東の島国式チェス』ってやってたような気がするから、少しなら交流があるのかも。」
「そっか…でも認識としてはその程度なんだね……それにしても…この辺り砂漠が多くない?」
アジアのシルクロードに続く砂漠ならともかく、ヨーロッパ付近にまでこんな砂漠あっただろうか…
環境破壊がそんなに進んでいるようには見受けられないし…
「こっちの砂漠の辺りはクセルクセスって言う国があった場所で、
今は滅んで風化して砂漠化したんじゃないかな……
『一夜にして滅んだ』って噂もあるんだよ。」
「そうなんだ……後は新聞でも読んでおこうかな……
結構期待してたのに地図は役に立ちそうにないし、新聞と歴史書少し見れば十分かも…」
似たような部分と地形の解説のみの世界地図を閉じ、
国内の地図くらいは欲しいかなと考えながら、アル君と二人必要の無い本を片付けて、
借りた新聞を読みふけりながら地図で地名を確認していく。
「この国って…なんだかおかしな国だね…」
受付で頂いてきた紙に国内の地図を簡単に模写し、新聞と歴史書でたどった戦歴を記して行く。
「形も気になったんだけど…路線図の張り方とか…内乱のあった場所とか…
他国との情勢が良くなくて、軍事国家な割りに内乱ばっかりで、国外での戦闘ってあんまりないんだ…
それに歴史が比較的新しい……」
「へ?」
「歴史が新しいから路線図の張り方がこうなのかな…それとも錬金術の理みたいなもの?」
主要駅と内乱地の印と印を簡単に線で結べば、少し怪しげな図形ができる。
「五角形…にもなるし星にもなるね…これって五行の陣?
ん…でもいまいち形が悪いね…他にこの辺りとこの辺りで何か起きればものすごく形整うよ?」
「本当だ…さんってなんだか面白い発想してるね…でもこんな練成陣見たこと無いよ。」
「結び方とか組み合わせの問題かも。そうやって考えると錬金術勉強してみたくなっちゃうね。」
ゴ―――――――――――――――――――――ンン!!
二人で小さく笑いながら次の新聞へ手を掛けると昼を告げる金が成り始めた。
「あ、そろそろ兄さんも奥から出てくるよ。」
「そうだね。片付けてお昼の準備しないと……。」
立ち上がって借りた本と新聞を二人で片付け終えた頃、
奥の警備付きの扉からコートを持ったエド君が現れる。
「あ、兄さん。」
「お疲れ様エド君。調べ物は捗った?」
「それはこっちの台詞だろ…何調べてたんだ?」
「えっと…国際社会と国内の社会情勢について?」
「なんだそりゃ……」
「とりあえずこの国が物騒な国だって事は凄く良く分かったよ。」
そんな冗談めいた話をしながら、受付のお姉さんに挨拶を済ませ、
図書館前の公園の芝生にシートを広げ、そこへ座って、
アル君お手製のバスケットの中からお弁当を広げる。
お野菜はほとんどサンドイッチにして、
クリームコロッケ・エビフライ・その他はおかずとして別にした。
彩り考えて作るの苦労したけど、エド君は喜んでくれてるみたい。
「お昼からはどうするんだ?」
「昨日の夜話した通り。このまま夕飯のお買い物済ませて帰るよ。」
水筒からコップにお茶を注ぎエド君に渡す。
「お夕飯なにか食べたい物ある?」
「うーんシチューは昨日食ったしな……」
「エド君シチュー好きなんだね。何も無いなら、こっちで作るからお楽しみって事で良い?」
「ん…いんじゃね?」
ぽっかぽか陽気にぽんやり空を見上げ、気がつけばお弁当は殆どエド君の胃の中に納まっていた。
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