Act,21

「なんだよこの物体は……。」

「大佐エプロンなんか持ってたんですね……」

「たまには料理くらいはせんとな。」

黒いエプロンを身につけ、兄弟から愚痴を言われながらロイがキッチンに立っていた。
せっかく昨日とアルフォンスが買ってきた食材が無残な形で鍋に入り味付けられていく。
野菜の皮は剥けないのに何故かパンを切るナイフ捌きが良いのは軍人ならではか……

「原型とどめてなければいいんじゃね?全部みじん切りにしてさ、塩と故障とブイヨン入れればいいだろ。」

そういってロイに並んだエドが鍋からまだ原型を留める野菜を取り出し、
さらに切り崩すと確かになんだかわからない。
これなら味がしみこむしみこまない以前の問題だろう。

「外で済ませた方が早くなかったか?」

「それじゃぁさんが起きてきた時なにも無いじゃないですか。」

横で手伝っていたアルフォンスが口を挟む。
料理などと思っていたロイもその一言に黙って作業に入っていた。







「今日は兄弟も私と一緒に昼から出かけるから、ゆっくりしていなさい。」

そういって起きると聞かないを寝かせ、ロイが下着一枚でリビングに顔を出すと、
なんとも居心地の悪そうな兄弟二人に出迎えられた。

「あんたなぁ……。」

「へ……部屋の壁結構薄いんですね……。」

大きな鎧の体のアルフォンスが内股でソファーに座り、彼唯一の衣服であるふんどしを両手で握り締め、エドワードは眠れぬ夜をすごしたのか目の下に薄い隈を作っている。

「子供には少し刺激が強かったようだな。」

二人の様子にそれでも殴りこんで止めに入らなかっただけでもましかと、軽く冷やかすだけに終え。

「このまま私の仕度が済んだら出かけるぞ、二人も準備をしておけよ。」

「その前に大佐……ハラヘッタ。」

「………………」

結果、入浴・着替え・料理・食事を済ませた頃には時間となり家を出た。








「大佐はさんの事どう思ってるんですか?」

道中もずっと無言だった3人の沈黙をアルフォンスが破る。
司令部に付き、とりあえず言いたい事もあるだろうと人払いを済ませた司令室へ二人を通したものの、
食事を終えてからは終始無言のまま。
中尉がお茶を入れると部屋を出てからアルフォンスが直ぐに口を開いた。

「どう…とは?」

「好きなのかってことだよ。昨日の夜…その…あんなことしといてさ……」

「そうだな、まぁ邪魔に入らなかったのは以外だったが、
私が思っていたより君らが大人だったと言う事だけ褒めておこう。」

デスクの上に置かれた書類に目を通し、優先順位を考えて整理しながら答えれば、
それが気に入らなかったのか、アルフォンスが怒きり立たつ。

「大佐っ!」

「君らの好きだの嫌いだのと言う言葉の意味は我々大人とは解釈が違う。」

目を通していた書類を一度机の上に置き、怒りに震えるアルフォンスを見上げる。
隣に立ち上がったエドワードの瞳にも言葉に言い表せない怒りの色が見えていた。

「アルっやめとけ…」

まともな話しをする気が無い事を悟ったエドワードがアルフォンスを宥め、ロイに鋭い視線を送る。

「君らももう少し大人になれば分かるさ……」

「たぶん一生わかんねーよ。」

特に用があったわけでも無い兄弟二人は立ち上がった勢いもそのままに退室し、
一人部屋に残ったロイは回転する革張りの椅子に深く腰掛、背負う窓の外に広がる青空に視線を上げぼんやり軽快な声で鳴き去る鳥を、風に任せ流れる雲をぼんやり眺めてみる。
うっとおしいくらいの青空から再びデスクに戻り、書類に付くはずの手が視界に入るとそのまま掌を見つめ自虐的な笑みが浮かぶ。

「血で汚れた手で惚れた女を抱きしめる……か……」

硬く閉じ、吊り上げた唇はノックの音で切り替わる。

「大佐エドワード君達は……」

入れ違った中尉がトレイに2人分のカップを乗せて入室するも、そのカップの一つは無駄になってしまう。

「特に用があって来たわけではなかったのでね……すまないね」

「いえ……。大佐もしかしてと何かありました?」

専用のカップを書類の邪魔にならぬようデスクに置き、傍に立ったリザは普段とは違うロイの表情を見逃さなかった。

「さぁ…どうだろうな…何か有ったと言えば有ったし、何時もと同じだと言えば同じだと思うがどうだろうな。」

「あまり追い詰めないでくださいね。」

「どちらを?」

中尉の答えは返ってこない。
飲む人間のいなくなったカップをとりあえず応接セットのテーブルへ落ち着け、
机の上に並べられた書類に目を通す。

「大佐こちらの書類と軍議、残りの書類も今お持ちします。終わらせたら今日はさっさと帰ってください。
セントラルから中佐がお見えになるそうです。」

「ヒューズが?なぜ?たしかグレイシアがまだ身重だろう」

「『今のうち』だからだそうですよ。安定期には入ってますし、出産までまだ何ヶ月もありますから。」

「結婚に出産か……。」

「大佐も同じお歳なんですよ。」

「君も結構良い歳だろう。」

部屋の空気が凍りつく。
不毛な会話に終わりを告げ、ロイは目の前の書類から順番に片付け始めた。
背中に広がる空は身につけた軍服のような快晴。
それでも胸の内が落ち着かず曇り続けるのは昨夜の行為のせいか、今朝の発言のせいか……
腕の中にまだ抱きしめた感触が残っている。
彼女の流した涙の位置もはっきりと分かるほど、自分の中の彼女の存在の大きさにまだ気づけない。










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大佐独白話?兄弟は次へ繰越となりました。
なんか中途半端だったんですが、テキストの量がここで途切れたので一区切り。
このまま兄弟とヒューズさんと……
しばらく大佐の一人よがりが続きそうです。

にしても自分の文章表現の乏しさに最近泣きそうです。