Act,22

「兄さん……今日はもう帰ろうよ……」

勝手知ったる図書館の特別資料室。
床には読み散らかした本に囲まれ兄弟が背中合わせに活字に目を走らせる。

………そう、走らせていただけで実際何一つ身に付いてはいなかった。

兄が無意味にページを捲る音は普段の読書スピードとも違う。
弟は本を手にするだけでページを捲る事すらせず、兄弟は共通の問題頭が一杯だった。

昨夜行われた とロイ・マスタング大佐との営み。

大佐に関しては女性関係の噂が絶えない事は良く耳にしていた。
しかし、年齢にして兄13歳・弟12歳の兄弟に大人のベットシーンは音声だけにしても十分刺激的な物で、
薄い壁一枚隔ててあちら側で営まれていた行為に、眠れる筈も無く、
かといって日が開けて数時間経った今でも目を閉じればもんもんと脳内をその音声が過ぎり、
同じ屋根の下を数日過ごした女性の淫らな姿を想像してしまう。

「帰ってどうすんだよ……」

「だって…ぜんぜん身に入ってないし…兄さん一睡もしてないんだから疲れてるんじゃない?」

「寝不足は寝不足でも帰って寝れるかって聞かれて眠れるもんでもねーだろ。」

さん一人で寂しくないかな……」

「さぁな……」

「ねぇ兄さん。大佐はあんな事言っててもさんはどうなんだろうね。」

「俺が知るかよ……」

兄弟の間に沈黙が走る。
どこか機嫌の悪い兄が鎧の弟に体重を預けぼんやりと空を見上げる。

「……帰るか。」

兄がポツリと漏らすと弟がはっと顔を上げ、がちゃがちゃと体を鳴らしながら散らかした本を集め、本棚に片付けにかかる。
兄の方も立ち上がり、持っていた本を一冊棚に納めると赤いコートを羽織り、入り口で弟を待つ。
片付けを終えた二人は受付の声を掛け、並んで施設を後にした。








『とにかくお風呂。』

何を考えてかロイが開けっ放しにしていったカーテンから漏れる光が、うっつらとうたた寝を始めていたを現実へと引き戻す。
重い体に鞭打ち、暖かいベットから抜け、着替えを用意して借りっぱなしのシャツ一枚で浴室へ向かい、蛇口を捻る。
間を置かず冷たい水がお湯へと変わり、シャツを脱ぎ捨てバスタブへと足を入れたの体をゆっくりと温め始めた。
何も考えず降り注ぐ湯に瞳を閉じる。
ぼんやりとただ時間だけが過ぎて行くなか、リビングからの電話の音で現実に引き戻された。

「電話?」

リンリンと高い音で鳴り響く音を確認する為蛇口を捻りお湯を止め、
着替えもままならずとりあえずバスタオルを体に巻き、ぬれた髪を適当に纏め上げ浴室から出ると、
ちょうど帰宅した兄弟と鉢合わせた。

さん?!」

「あれ?えっとおかえり?」

玄関のドアを開け、兄弟がの姿に固まる。
幸いな事に扉を閉めた後に鉢合わせ、外の人間にその肌を晒す事にはならなかったが……

「エド君鼻血!大丈夫?」

何も言わず固まったままの兄の鼻からは赤い筋が通り、言われて慌てて白い手袋の両手で鼻を押さえ、
心なし足元がふら付く。

「あー手袋に血が付いちゃうっ」

さんそれより服っ」

鼻血を出し足元おぼつかない兄にタオルを巻いただけの体で寄り添うに兄の内心察する弟が口を出す。

「あ、それより電話。」

エドの手をやんわりと払い、首筋を押さえて頭をやや前に屈めさせ、自分の手が汚れる事も構わず、
小鼻を両側から押さえる。
そうしてる間にも電話は鳴り止む気配無く、3人の会話の邪魔をし、この騒ぎを大きくするも、
の発言にアルが名乗りをあげ、リビングへと駆け上がり受話器を上げたのか、音が消えた。

「エド君大丈夫?このままリビング上がって座るか横になった方がいいから……歩ける?」

返事の代わりに足をリビングへ向け、がエドを抱き支えるように寄り添って歩く。
身長差からエドの顔は自然との胸元に埋まる形となり、鼻血は止まる気配を見せない。

「つらいなら横になった方がいいね……クッション頭に敷いて、上向かずに横に向けて……」

リビングのソァフーにエドを落ち着けパタパタとリビングと浴室を往復し、とりあえずタオルを一枚渡す。

「顔も赤いし……寝不足?疲れが出たのかな……冷やそうね。」

着替えも済まさず冷やしたタオルを鼻の付け根と顎を冷やし、
エドは顔を赤く鼻血を滴らせながらもソファーに屈むの胸元から視線を離せずに、自分を呪う。

さん後は僕がやりますから、とりあえず着替え……このままじゃ兄さん出血死しちゃう……。」

「鼻血くらいで死なないでしょ?でも着替えは済ませてくるね。あと血の付いたタオル洗わないと……
じゃアル君後お願いね?」

弟のアルにすべてを任せ、やっとはエドから離れ、浴室へと姿を消した。

「兄さんも大佐と変わりないかもね……。」

顔を真っ赤にして固まる兄にため息を漏らす。
兄の方は先ほどから顔を真っ赤にして固まったまま動く気配を見せない。

「兄さんのエッチ。」

「うるせぇ……。」

エドがやっとのろのろと起き上がった頃、まだ塗れた髪をそのままに、服に着替えたが再び顔を見せる。

「エド君もう大丈夫?冷やしてまだ止まらないようなら病院行った方が良いかもしれないけど……」

エドの押さえるタオルをゆっくり離し、血が止まってる事を確認すると、
「大丈夫だね」と冷やす為に濡らしていたタオルでエドの顔を汚す血を拭き取ってやり、
「染みにならないように洗うから」と再び部屋から姿を消す。

さん元気そうだね……」

「そうだな。」

「兄さんもういい加減立ち直ったら?」

「そうは言っても……昨日の事も思い出して……」

「………」

リビングのソファーで二人の兄弟に沈黙が流れる。
エドは再び鼻血でも出さんばかりに顔を赤く染め、アルもおそらく生身で有れば顔を真っ赤にして俯いていた。


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勢いでズバッと「23」まで書きました。
単純に何時ものテキスト量の倍あっただけなんですけど(笑)

今回のはBGMつけようかと思ったくらい自分の不甲斐なさに反省。
頭の中の兄弟はものすごく大騒ぎでコミカルに動き回ってくれたんです。
くやしいなぁ
なんかないんですかね。自分の脳内の映像を文章にしてくれるスキャナ(笑)

あとエドに膝枕をしなかったのはなぜなんでしょう(笑)
本当はしたかったんだけどちょいと不自然かと
これも自分の表現力の無さが悔やまれます。