Act,30

Act,30 「地下室?」

階段を幾つか下り、連れられた部屋を見回し呟く。
そこは先程ロイも通された男が使用する錬金術の研究室だった。

「こちらですよ。足元に気をつけてください。」

部屋に敷かれたカーペットに練成陣の書かれた紙をかざせば、
電気がショートしたような独特の練成反応の後、更に地下への階段が現れる。

地下として作ったにも関わらず、どこか浅く地上に近い研究室は、
この部屋にも地下通路へ通じる道が床に備えてあったからだ。

闇の中、小さなオイルランプ1つで照らされた足元。
視界は悪く、肉眼で確認することはできなくても、風の音が、前にも後ろにも長い通路がある事を教える。
男はの腕を離さず、時々立ち止まって通路の分かれ目、角を慎重に確認しながら歩き続ける。

いつの間にか通路は一本道となり、どれくらい歩いただろうか、暗く、先の見えない行軍に、
の足は自然と重くなり、それに反し男は腕を掴む力を緩めず、歩くスピードは焦りからか速まって行く。

『地元なら2・3駅分くらいは歩いてるよね……』

休み無く歩きながら漠然とそんなことが頭を過ぎる。
歩くこと自体は差ほど嫌いではないだ。
景色さえあれば、それくらいなんとも無い距離でも今の状態でこの距離は流石に疲労感が襲う。
足元さえ見えない暗く真っ直ぐな道。
手を引く男の手がそれで無いようで、まったく別の物に引かれるような錯覚さえ覚える。
先の見えぬ恐怖か疲れか……



《何処へ行く?》



の意識がぼんやりとし始めた時頭の中で誰かが囁き掛ける。




『誰?』

《何処へ行きたい?》



が問うよりも早くそれを遮るように囁く声。
子供のような大人のような男のような女のような……




《答えは?》


『私は……』





「ここですよ……」

問う声に自然と口が開いた時だった。
男の声はを一気に現実へと引き戻し、
男は目の前の階段を上りカンテラで壁を照らしながら練成陣の書かれた紙を翳せば、
錬成反応の火花を散らし、壁は扉へと変化しそこから光が漏れた。

男と二人外へと出るも、は暗い道を振り返る。

「何か?」

「………別に……それより、ここは……教会?」

振り返る道は暗く、何かを示そうともせず、何も感じない。
何処か納得の行かないながらも、男の声に応え顔を上げれば、足を踏み入れた建物を見回す。

「古い宗教施設で、今は使われていないそうですよ……
申し訳ありませんが朝までここで過ごして貰います。」

男の話を聞きながら、は夜の月明かりに照らされたステンドガラスを見上げていた。

「きれい……」

祭壇から天井を見上げるを月明かりが照らし、
その姿を見ながら男がカンテラの灯りを消して、それでも部屋は十分明るかった。

「ここでなら幾ら歌ってもかまいませんよ。」

角度を変えて天井のステンドガラスを見上げるの足が僅かづつ動き、男はそんなを止める事はせず、祭壇に向かって並ぶ椅子に腰掛、
遠まわしに一局興じろとの言葉には口を開き、やがて小さな音が漏れる。
は何時の間にか本格的に何の遠慮も無く歌い始め、男はじっと聞き入っていた。

「もう一度、きちんとお話してみてはいかがですか?」

数曲後。振り向いたの目に映ったのは、無意識かうっすらと一本の涙の筋を頬に浮かべた男の姿だった。

「何を話すんですか……」

「私って、誤解した上の先入観で最初に怒鳴られたらもう頭にきちゃってある事無い事言っちゃったりするんですよね。」

「彼女の事は誤解だと?」

「私はその人じゃないからわかりませんが……でも貴方の電話や手紙にきちんと応えてくれてたのでしょう?
普通冷めてしまったら返事の回数も減ってくると思うんです……
だから、まず『聞く』事からはじめてみてはどうですか?」

「だが彼女は確かにあの時……」

「辛かったんじゃないかと……思います。
だって……好きで好きで、ずっと待ってた人に誤解されて怒られたら……」

「…………」

「一言謝って、ゆっくり時間を掛ければ良いんじゃないですか?
長距離恋愛可能な二人がこんな形で壊れるなんて……」

何時の間にかは男の隣に並んで座ろうと、男がそんなの為席を詰めるべく軽く腰を上げた時だった。

背の高い扉が微かに開き、月の光を背にした長い影が室内に伸びる。
顔を上げた二人の視線の先には、ロイ・マスタングが立っていた。


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本当は30で出会い編完!
って予定だったんでうすが……
結構キリ番って好きなんでだらだら35くらいまで続けてしまうかもしれません。
いやー本当に予定って未定でっすねー
この話書いたのもいったい何ヶ月前の事か。。。