Act,31

「女性をエスコートするには随分な場所だな。」

軍靴の乾いた音を響かせゆっくり二人に近づくロイの手には、拳銃と発火布。

「ロイ……さん……」

は会話を遮るその声に顔を上げるもその表情に凍りつく。

「離れなさい。。」

「あ…あの…」

足が竦む。
ロイの瞳はが未だ見たことの無い光を灯し、男を睨む。

「司令官殿がこんな場所へいったいなんの御用ですか?」

男はの腕を掴み、自分の側へと引き寄せ、それでもの視線はロイの瞳から離れる事がない。

「彼女を迎えに来ただけだ…遅くなってすまなかったね……。」

「何か誤解なさっていませんか?この方は私の大切なお客様なんですよ……」

自分の名を呼ぶロイの一瞬見せた優しい瞳。
しかしその後直ぐにまた鋭い眼光を宿し対峙する男を睨む。

「お約束だな……
彼女を離してこちらへ返してもらえるかな?今なら相応の処理だけで済ませてやっても良い」

脇に絞めたホルスターから銃を取りまっすぐ男へ向け構える。

「彼女に当たりますよ?それとも貴方にとっては女性の一人位数字でしかありませんか?」

言いながら男はを一度胸元へ抱きこむとポケットから一枚の布を取り出し、
描かれた錬成陣が淡い光を放つとを床へ投げ、光が収まる頃には男がその手にも銃を構えていた。

顔を上げたやはりロイの瞳から視線をはずせず、互い構えた銃の間。
僅かに動いたロイに、体が勝手に動いていた。

「め……駄目っっ!!」

とっさに動いた体は見ず知らずの男を庇い、そしてその手に構える銃口をロイから逸らすように手首を掴み、セーフティの外された銃からは放たれた乾いた音が響く。


同時ロイの発火布が擦れる。


銃声は1つ。
初めて聞く生の銃声。
鼓膜の割れるような感覚と、とっさの弾みに男と共に倒れかけた体を、ロイの手が支え、抱き込む。

抱えられる腕の中。
その主が何か仕切りに言葉を発しているようだが、聞こえるのは耳鳴りばかり。
何が起きたかもわからず、一瞬真っ白になった意識が戻ったのが先か、
自分を抱きしめる男の体がその場に崩れ落ちる。

「ロイさんっっ」

その場に膝を突き、左足を押さえながら奥歯を噛み締め脂汗を額に流すロイが顔を上げ笑って見せる。

「無事だよ。」

「嘘……」

「大丈夫。掠っただけだ。」

ロイと一緒にしゃがみこみ、ぼろぼろと涙を流すの髪をロイがゆっくりと撫でる。

「止血…とりあえず止血しないと……」

「あぁそうだな。できるか?」

涙を振り払い、血の滲む左足のブーツを剥ぎ、ズボンの裾を引き上げポケットから取り出したハンカチを使い体重を掛けて傷口を圧迫する。

「まだ滲んで……他に何か……」

ハンカチなどで間に合う筈も無く、流れる血を止める事などできない。
周りを見回せど錆びた施設に清潔な布などある筈もない。

「少し心配だけど……」

はロイの血に塗れた手で、自分の身に着けたブラウスのボタンに手を掛け、それを脱ごうとするもその手をロイに止められる。

添えられた手に顔を上げると、変わってロイが軍服を脱ぎ、自分のシャツを脱いでに差し出した。

「女性を裸にするわけにはいかないだろう?」

脂汗をかきながらも微笑むロイに返事もできず、そのままシャツを使い再び止血に入り、シャツをそのまま包帯にしてしまう。





「悪くないな……」

出血も落ち着き、素肌の上から軍服を着なおしたロイは、床にしゃがみこんだの膝に頭を乗せ、は先ほどまで収めていた涙を再び零し、ロイの顔へと雨を降らせていた。

「すまない…怖かったな…」

「ごめんなさい……本当に……私……」

目の前の顔に手を伸ばし、その頬に触れる。

「なぜ君が謝る」

「だって……」

「謝る必要は無いだろう?今回の事は君に何も非はないよ……
あぁ…だが…できれば、もうあまり先程のような無茶はして欲しくはないかな。」

「さっき?」

「あぁ。咄嗟の判断だったんだろうが……一瞬心臓が止まるかと思った。
なぜあの男をかばったりしたんだ?」

「瞳が…瞳が怖かったんです……
ロイさんが……この人を殺してしまうんじゃないかって……」

「私は軍人だ…必要があれば人を殺す。それが仕事だ。」

「そうかもしれません。それでも……それでも殺して欲しくなかった……
戦争になれば人の数なんて数字でしかないんだろうし……
でも…それでも……目の前で人が人を殺して……殺されて……そんな物は見たくないと思ったんです。
今まで今まではどうかしりません……でも今は……ロイさんに……」

言葉に詰まり、震える手をそっとロイの手が包み込む。

「『さん』ではないだろう……」

「あ…今そんな話…」

「私に取っては何より大切な話だよ……」

「あ…えっと…」

「すまなかったね。
そうか……そうだな……今まで考えたこともなかったがそうなのかもしれんな……」

「あの……」

そういえばと、今やっと話題に上った男の方を見れば、すでに煙は消えているものの黒くくすぶっている。
ロイの手がの頬に触れ、視線を戻す。

「死んではいない。それより。」

「……………はい。」

の手が今度はロイの頬に触れ、一つ涙がぽたりと頬に落ちると、まだ涙の残る瞳のまま、淡い笑みを浮かべ、

「ありがとう……ロイ……」

小さくもはっきり告げたの手を取り、ごく自然に……
月明かりが照らす中、二人は唇を重ねていた。


焦げて意識の無い男の目の前、規則的に並ぶ机を背に座り、
天井窓のステンドガラスから注ぐ月明は室内の埃に反射し、
いつの間にか互いの手を重ね肩寄せ合う二人をきらきらと照らしていた。

「捨てたれたのかとも思ったんです……
何か都合が悪くなって、でも何かがおかしいって気付いて……。
気付いたらなんだかどんどん心細くなって…怖くなって……」

重ねる手に力が入り、僅かに震える肩をロイがそっと抱きしめる。

「でも……声が聞こえたんです……だから……」

「遅くなってしまってすまなかった……」

肩を抱く力強い男の腕。
は温もりを求めるようにロイの胸元へ躰を預ける。
伝わるロイの体温と、胸元のの頭にそっと大きな掌が覆い、優しく撫でる。

数分か数時間か……
お互いそのまま言葉を交わす事なく寄り添い、しっかりとそこに居る事への存在感を認識し合う。



『あぁ……私ここに居たい……』



解れた緊張からか薄れる意識。
今自分を抱きしめる腕の中で、は確かにそれを自覚する。

建物の外に数台の車がブレーキを掛ける音が響き、ばたばたと人の足音が響く。

「大佐っ遅くなりました。無事っすか?」

「あぁなんとかな。彼女も意識を失っただけだ。」

ハボックとの会話中、中の状態の安全を確認した人間が顔を見せる。
事を大げさにせぬよう必要最低限のメンバーと手配された2台の救護車。

「兄弟は?」

「ヒューズ中佐が面倒みてくれてますよ。」

「そうか……」

男を乗せた救護車に続きロイもハボックの手を借り乗り込む。
簡単な現場検証の為数人の軍人を残し、再び廃墟は月明かりの下元の静けさを取り戻した。

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どこまで書くかものすごく悩みました。
ここで行き詰まってたんですよじつわー

アクションシーンなんてなかなか書く物じゃないですしね。
未熟者の中途半端な文章で申し訳ないです(汗