バレンタイン 前編 | ||||
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チョッコレイト♪チョコレイト♪チョコレイトは〜 石畳の道を歩き、久しぶりに慣れ親しんだ上官の家へ向かえば、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。 「なんか甘い匂いしないか?」 「兄さんそれ嫌味?僕匂いなんかわからないよ……」 「…………」 鎧の体を軋ませ、音を鳴らしながら弟が毒付く。 さりげなく発した一言で兄の方は黙ってしまう。 最近この兄弟はこんな感じでお互いの関係がぎすぎすしてしまっている。 兄が国家資格を取得し二人きりで旅を始めてから些細な事で喧嘩を繰り返してはいたが、こんな空気はあまりない。 大雑把な兄がデリカシーの無い事を勢いで口にしてしまうのはむしろしょっちゅうで、 会話自体は普段と変わりはないが、弟の様子がおかしい。 なんともいえない空気の中、目的地の前で立ち止まり、玄関に供えられたベルを鳴らせば予想通りの声が返ってくる。 「はーい。今出まーす。」 遠くから澄んだ綺麗な声が聞こえる。 ぱたぱたと小走りに走る音が聞こえるとドアの向こうで足音が消え、 それにあわせて二人がドアから一歩下がるとまるで見えているかのようにタイミングを合わせて扉が開く。 「エド君アル君おかえりなさい。」 「ただいまさん。」 「ちーっす。」 エプロン姿で扉を開き、挨拶を済ませた二人を招き入れる。 キッチンからはやはり甘い香りが漂い、脱いだコートをに預けながらもそちらの方が気にかかる。 「今日はね、バレンタインデーっていって女の子が男の子にチョコレートと自分の思いを伝える日なのよ。」 「なんだそりゃ……」 「私の国のお菓子メーカーの陰謀。」 「…………」 「海老で鯛を釣るのよ。一ヶ月後の3月14日はホワイトデーっていって、そのお返しを男が返事と一緒にする日なのね。 OLさんはそのお返しを狙って、そこそこ値の張る高級で流行のチョコレートや女性らしさをアピールするために、 手作りのチョコレート・お菓子を作って渡すの。 で、ホワイトデーにはブランド物のバックや、服を買ってもらうわけよ。」 「思いを伝えるって……」 「女心は複雑なのよ。」 「……も大佐に何か買ってもらうのか?」 「ロイは甘いもの苦手なんだそうです。だから今日はロイは無し。 日頃の感謝の意味をこめて、楽器屋の小父様とのお茶請け用のマーブルチョコケーキと、 ハボックさん達にチョコマンディアンでも作って差し入れようかと思ってたの。」 「ケーキと……。」 「チョコクッキーの事ね。離れてて、もう帰れなくても忘れたくは無いじゃない? ほらっ。エド君洗濯物出して。たまってるでしょ?今洗濯機回しちゃおう。今から干せば十分乾くよ。」 一瞬少し寂しそうな顔を見せながら、郷里の話を短く終え、しっかりと切り替えて、 最近では少しなれた日常の会話に戻る。洗濯物を弟が集め、兄は旅の汚れを流しに浴室へ…… 旅の荷物を整理した後、弟はと二人キッチンに並ぶ。 「アル君も傷だらけ。後で磨かないとね。今度は何処へ行ってきたの?」 オーブンから焼きあがったスポンジを取り出し、ナイフを入れながら並ぶ弟と会話を続ける。 「今回は少し北の方。この時期は寒いから兄さんへばっちゃうよって言ったのに、絶対行くんだって兄さん聞かなくて……。」 「そういえば北の将軍がどうこうってロイが言ってたような……でもこの時期に北って雪とかすごそうね。」 「うん。結局兄さん雪で前に進めないだとか、汽車が止まっちゃって寒いだのって怒りっぱなし。」 「『僕があれ程止めたのに』それが今回の喧嘩の原因?」 「さん?」 「アル君ってさ……不思議とわかり易いんだよねぇ そんな体してるから表情無いはずなのに、なぜか出てるのよ。なんか身にまとうオーラと言うか空気と言うか……」 「僕たち別に喧嘩してるわけじゃ……」 「喧嘩以外の言葉が見当たらないけど……こういう場合こっちではなんて言うの?」 生クリームをポップする手を止め、が弟の顔を見上げる。 「なんか……なんだろう…機嫌悪いときってあるんだよね……相手の何が気に入らないのかわからないけど、 ものすっごく気に入らない所があって、そこが気になって口数少なくなって…そんな感じ?」 「えっと……。」 「それならほっとくしかないよねぇ…原因がわかるならさっさと修復しないと、二人きりの旅じゃ困る事も出てくるんじゃない?」 「……兄さんが意地っ張りなだけなんだよ。」 分量を見ながら湯煎で溶かしたチョコレートを生クリームに混ぜ合わせながら、は喧嘩の原因を語りだす弟の話に耳を傾ける。 原因はやはり些細なこと。疲れているのに気丈に振舞う兄。 成果の無い旅から苛立ちを募らせ、その苛立ちは自分だけの物としてしまっている事。 自分だって街の人や宿の人の対応に腹が立つ事だってあるのに、兄は自分はなんとも思ってないと思っているetc 日常の些細な事でお互い不機嫌で現在腹の中を探っているような状態らしい。 兄が国家錬金術師の資格を得て、二人で旅を始めてから1年以上が経過しようとしている。 二人のこの不陰気の極めつけは、弟の「そろそろ一度リゼンブールへ帰らないか」とその一言らしい。 「少し前に立ち寄った村でね、幼馴染に会ったんだ……お医者さんの見習いをしててね。兄さん村の近くで熱だしちゃって……。」 アル君はきっとお母さんっ子だったんだろうな……などと思いながら、ケーキにデコレーションを加えて行くの横で弟が夢中になって旅の話を進める。 先日の幼馴染の再会時の話。北へ行こうとしたが、雪と寒さに兄がへばってしまった事と街道が閉ざされてしまっていけなかった事。 「それでね、兄さんがリゼンブールにも戻らないって意地張って、これからどうしようかって言う時に、 丁度大佐から呼び出しが会って、『報告書の提出と簡単な調査を頼みたい』って……。 僕らもこの先どうしようか悩んでたし、まっすぐこっちに来て……。」 「エド君とアル君ってまだ12・13歳だよねぇ……その年で軍へ報告書の提出と、調査依頼されて…… なんだか二人とも若くして老け込みそうね……。」 いまいちピントのずれた返事をしながら出来上がったケーキを皿に載せ、持ち上げて弟に見せる。 「出来たっwねぇアル君。さっきの話聞いてると二人はしばらくここに居てくれるんだよね? こんなに大きなケーキだもん小父様と二人じゃ食べきれないし、ロイさんは甘いもの嫌いだそうなので論外。 今日は疲れてると思うけど、私に付き合って?」 「あ…うん。僕は良いけど兄さんは……。」 「まだ朝早いし、出かけるのはお昼頃。最近ね、小父様と一緒にお昼頂くのが日課なの。 それよりエド君のお風呂何時もより長くない?」 「え?あ……あぁ兄さん!」 の言葉に弟が走り出す。そんな背中を見送りながら、まだ冷え固まらないマンディアンをケーキと並べて冷蔵庫へ収め、扉を閉める。 「今日は楽しいバレンタインになりそうでよかったかな?」 普段一人家で過ごす事の多いに思わず笑みがこぼれる。 弟の後を追って、浴室に向かえば、バスタブで居眠っていた兄が目を覚まし、慌てた兄に追い出されてしまった。 |
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気が付いたらえっらい長い事に… アンケート結果を見たら、近差で節分からバレンタインが勝った事。 あと兄弟が意外所か結構人気があったので、絡めてみようかと…… 一応結末はお相手大佐ですのでよろしくです。 それにしてもなにやってんだ私…… |