バレンタイン 中編 | ||||
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「………………………………」 「エド君まだ怒ってるの?」 「別に怒ってるわけじゃ……」 「さん兄さんの事心配してただけじゃない。」 「そうだけど……」 「だいたいパンツまでしっかり洗ってもらってるのに今更裸見られたくらいなんだよ。」 「お前なぁ!」 「うーん……やっぱり恥ずかしいものなのかなぁ……家の弟15・16でも平気で家の中裸で闊歩してたけど……」 「「はぁ?」」 「さん弟いたの?」 「15・16って結構いい年じゃねぇ?つか裸で家の中って…もしかしてあんたも……」 「えっと……2つ下の弟が1人いたよ?あと両親共にお風呂上りは結構裸だったし…… 私はさすがに服きてたかなぁ……それで散々馬鹿にされてたけど……」 「服着て馬鹿にされるって……」 「家族なのに恥ずかしいのかーって。」 「「………………………………」」 4人分の昼食と、出来上がったばかりのケーキと瓶詰めのマンディアンをそれぞれ手に持ち、石畳の上を楽器屋に向かってまっすぐ歩いて行く。 普段は一人で歩く道も今日は人数が多く、途中話題も尽きなくては終始ご機嫌だが、 話題が話題な上、どうやら浴室で全裸を女性に晒す事となった兄はさっきからやや機嫌が悪い。 「二人が居てくれて嬉しいな…なんか本当に今日は私浮かれてる。」 二人の前を一歩先行き、振り向くと満面の笑みを兄弟に見せ、兄弟も顔を見合わせ思わず笑みで返す。 いくら兄弟喧嘩をしていても、機嫌が悪くても、久しぶりに会い、笑顔で歓迎してくれる人間を邪険にする人間はそういない。 そのまま話の内容も切り替え、3人は足取り軽く、楽器屋へつけば、店の前で丁度街の巡回に出ていたハボック達と鉢合わせる。 「こんにちわハボックさん。」 「こんちわさん。と鋼の大将に弟も一緒か?」 「こんちわ少尉。」 「こんにちわ。」 それぞれ挨拶を済ませ、がハボックに紙袋を渡す。 「これ皆さんに差し入れです。ロイは甘いものが苦手だそうですので、彼抜きで皆さんで召し上がってください。」 見せる笑顔にどこか黒いものを漂わせ、ハボックが紙袋を受け取る。 「えっと…ありがとうございます。中身…何?」 「チョコマンディアン。論より証拠ですので、中身みれば分かると思います。 チョコレートなんですけど、甘さも糖分も控えめにしておきました。ビターで少し苦味もありますよ。」 「……それでも大佐には」 「食べさせる必要ありません。」 「わかりました……後大佐から伝言で、今日は夕方には帰宅するから、夕食よろしくとの事っス。」 「了解しました。何時に帰宅するかは知りませんが、私も夕方帰宅なので、家に居なくても心配しないでくださいとお伝えください。」 「了解っス。」 「いろいろご迷惑おかけします。」 「いえいえ……じゃこれ頂きます。じゃぁな大将。アル。」 どうやらここでハボック達とコンタクトを取るのも日課になり始め、大佐とは喧嘩中。そんなところらしい。 別れ際兄弟に首を竦め、苦笑するハボックの顔と会話の内容に、から何処か怒りのオーラを感じる。 ハボックを見送り、挨拶を済ませたは、そのまま踵を返し、明るい挨拶と共に楽器屋の戸を開け、 入室すると、何時ものポジションなのか初老が一人椅子に座り、笑顔で迎える。 兄弟にもそれに続き、ランチの準備を始めた。 「最近はさんが決まった時間に弾きに来てくれてね…相変わらず店の客は少ないが、ウィンドウ越しの見物客は増えたよ。」 「さん毎日来てるの?」 「うん。ロイが家に居ない日はね。お休みの日はさすがに来ないけど、雨の日でも通わせてもらってる。 最近は子供にレッスンの希望なんかも来てて、今はそれを受けようか検討中なんだよ。」 店内の応接セットにランチを広げ、何時もの時間が近づいているのか、気がつけばピアノの側のウィンドウ越しに小さな人だかりが出来てくる。 「結構な人数じゃないか?」 「そう?ご馳走様でした。小父様お茶のお代わりは?」 が言いながらティーポットを持ち上げ、老人が頷く。これも何時もの事なのだろう。 老人より少し早目に食事を済ませ、簡単な片付けを済ませるとがピアノの前に座る。 最初は指を慣らす為のアルペジオから始まり、今度はそれにあわせて小さく声を出し始める。 少しして郷里の曲なのか3人には意味の分からない言葉で歌い始める。 どこか切なくて、それでいてやさしい曲。 「その日によって毎日違う曲なんだよ……雨の日は楽しい曲が多いね… 今日の曲も初めて聴くが、これは……二人で歌う曲なのかな…」 「お爺さん歌詞が分かるんですか?」 「わからんさ…ただ歌い方がそうだろう?お互い誰かに問いかけ、励まし、訴えるように歌ってる。」 「………………………………」 曲が代わり、歌詞の分かるもの分からない物。ピアノだけの演奏。 楽譜も無く、たっぷりとお茶の時間まで時計も見ずにしっかり時間とおり演奏を終える。 窓の外から小さな拍手の音が聞こえ、そちらにも一礼すれば笑顔で3人に振り返る。 「お茶にしよっか。」 兄弟二人にも礼を述べ、勝手しったるキッチンへと姿を消す。 「さんって何時もあんな感じなんですか?」 「いいや…毎日違うよ。時間を忘れて弾き続ける日だってあるよ…泣きながら弾いてる日もあるね……」 「あんなに人が居るのに?泣きながら?」 「涙を見せるわけじゃないんだけどね…声や音でわかるんだよ。」 「お待たせ。」 3人の会話のに区切りがついたのか、老人が見計らったのか…… がチョコレートケーキとお茶を持って現れ、3人の顔を見回す。 「どうかした?」 「えっと…さんの話聞いてたの。ギャラリーすごかったねって。」 「娯楽の少ない国だからね…仕方ないよ…。」 お茶の用意をしながら、これから帰宅するのか、まだ残った客に手を振りながら応える。 「なぁ…さっきの1曲目ってなんて曲なんだ?」 「内緒。言ってもいいけど、どうせ言葉わからないでしょ?」 「歌詞の内容は?」 「それも内緒。」 「………………………………ケチ。」 「ケチって兄さん……。」 「いいもん。じゃエド君はケーキ無し。3人でおいしく頂きます。」 「ごめんなさい。」 「素直でよろしい。」 きっちり4人分には切らず、二人分は少し小さめに切り、案の定兄が弟の分まで平らげる。 甘い香りとは予想を外れ、さっぱりと甘さ控えめで意外とフルーティなケーキを午後のお茶と共に平らげ、 時間に合わせて店主と別れを告げ、帰りがてら夕飯の買い物を済ませて帰路に付く。 家に訪れた時の兄弟の嫌な空気も何時の間にか消え去り、夕飯のメニューに食材探し、 帰宅した頃には日も暮れ始め、鍵を開け、玄関を潜れば、不機嫌極まりない家主が出迎えた。 「お帰り…遅かったな…。」 「ただいま戻りました。私は何時も通りの時間に帰宅しましたから、遅くは無いと思いますけど?」 「ハボックに私が夕方には帰宅すると伝えてあったはずだか?」 「ハボックさんに私は何時も通り帰宅するので家に居なくても心配しないでくださいと伝言したはずですけど…」 「旅に疲れた兄弟を連れまわして買い物か?」 「そう思うならそこどいてくれませんか?家の中に入れません。それとも出て行った方が良いですか?」 「ちょっちょっちょっと待て!」 「た、大佐僕らそんなに疲れてませんし、勝手にさんについていっただけですから!」 「あーそうそうケーキ食って買い物しただけだって。そんな怒んなよ。」 玄関で不機嫌極まりないオーラを漂わせるロイに、それに応戦する。 玄関先でとんでもない会話を始める二人の間に兄弟が割って入り、何とか場を収め、 は二人に一言小声で侘びを入れ、夕飯の買い物袋を持ってキッチンへと姿を消す。 「さん大佐と喧嘩でもしたの?」 兄は部屋へ戻り、弟は先ほどまでと同じように夕飯の支度を始めるの横に並び、小声で問いかけた。 「君達と一緒。だから……人の事言えないね。」 少し寂しそうにつぶやいたは出した野菜に手を付けず、鎧の体に身を寄せ、俯き、一筋涙を流した。 |
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次は大佐だーおー つか兄弟だけで2P使って大佐が1Pで終わるのか不明。 仕事忙しくてここから先まだ打ち込み終わってなかったりして(爆) |